希望と現実


希望と現実

石巻市の日和山公園で仮眠後、市内を歩きましたが・・・
あまりの惨状にカメラを向けるモチベーションが下がりました。
午前中はもう、全然撮れません。しばし車を走らせ考え、また戻ったり。
それでも、過去に写したエリアを少し撮ったんですが、もう前の場所がわからないんです。
何もかも変わっていて。

その後、女川町へ向かいましたが・・・町へ入った瞬間「何があったんですかこれは」という状況。
いや、地震が来て津波が来たんですよ。そんなことはテレビでも見ているのです。
しかし、なぜ町がなくなったんですか・・・それはないでしょう。何もないと云えるほどありません。
あの商店街の姿はどこにも。

昔はこんな感じでした。(多少場所は違いますが)

ちょっと打ちのめされて女川を後にして、旧雄勝町へ向かおうと車を走らせました。
すると沿道で手作りの日の丸の旗を持つおばあちゃんを見つけました。
車を停めて話を聞いてみました。いや、聞く前から結果はわかっていたんですけど。

希望と現実

「自衛隊さんに本当にお世話になって、感謝の気持ちを伝えたいんだよ」
やはりそうでしたか!じゃあ、ぼくも一緒に手を振るから、写真撮らせてね!
「あなたは北海道から?このあいだは美唄と富良野から自衛隊さんが来てくれたの。
毎日こうして旗を振っていたらね、北海道へ帰るときに立ち寄ってくれて
残り物だけど、って自衛隊さんが食べる食料を置いていってくれたの・・・」

嬉しそうに話すおばあちゃん。
自衛隊車両が通るたびに「ありがとう~~!」ってお礼を言いながら旗を振る。
ぼくも片手でカメラ、片手を振って「ありがとう~!」・・・楽しいね。

おばあちゃんの家は実は高台だけど、ちょっと集落から離れて孤立気味。
しかも倒壊するかもしれないので仮設住宅に申し込んだけど外れたって。
水も少しは出るようになったけど、美味しく飲める水じゃなくて困っている、とのこと。

それならば、と「北海道の美味しい水を飲んで下さい!」とペットボトルの水を差し上げました。
ものすごく喜んでくれた。

希望と現実

「じゃあね、今度来ることがあったら写真持ってくるから、元気でね!」
おばあちゃんは、ぼくの車が見えなくなるまで旗を振ってくれました。

撮影:2011.5.3 宮城県女川町

以前訪れたとき、ある商店でお話を伺ったときのこと。

石井商店さんは遠洋漁業などの船乗りさん向けの商品を販売していた百貨店とも云えるお店でした。
時代が変わって雑貨屋さんに規模は縮小されたけど、栄えていた時代の絵はがきを見せてくれました。
誇らしげに差し出された絵はがきに写る在りし日の石井商店・・・

しかし、今回の津波で店が失ったことを知りました。
じゃあ、あの絵はがきもなくなったかもしれないし、震災前の店の写真もあったほうがいい・・・
そう思って前回撮らせて頂いた写真を持って向かったのです。絵はがきをお持ちになった優しい手。

雄勝町に夕方、日が暮れる頃にようやく着いたのですが本当にお店はありませんでした。
というか、町が完全に壊滅状態で言葉を失ってしまいました。

希望と現実

店主の居場所を伺うため役場へ行きました。雄勝庁舎も三階建てにもかかわらず壊滅状態。
プレハブの庁舎で、石井さんがどこの避難所にいらっしゃるのか調べて頂いたのですが・・・

帰ってきた答えは

「残念ですが、先日ご遺体が確認されました。お嬢さんも行方不明です」

絶句。

もう一度お店のあった場所へ向かい手を合わせてきました。
残念でなりません。おばあちゃんの、あの笑顔が見たかったんです。
写真を渡して、喜んで欲しかった。

ぼくは今回の行程で、何があっても絶対に泣かないと決めていました。

でも、今夜だけは泣かせて下さい。

テレビでは伝わらない、あまりの悲惨な町を見て、写真に収めることの辛さに心が折れそうです。
希望を見つけることが出来るのでしょうか。

コメント

  1. yah-_-yah より:

    絶句します・・・。
    現地に行ってみないと決してわからないことって多いですよね。
    僕のように北海道にいてTVで見る映像だけじゃ、真実はわかりません。
    そして普段は震災のことなど頭にもありません。
    なんというか、この惨状・・・
    日の丸を振るおばあちゃん・・・
    ここに書く適当な言葉が浮かびません・・・。

  2. cocoon より:

    私も・・・絶句です!!!
    ariari先生が東北にいらっしゃる事をお聞きした時、
    このおばあちゃんの元気な姿にお目にかかれる事を期待していました。
    無常ですね、娘さんまで・・・。
    お店の後方に高台が見えているのに、逃げ遅れたのでしょうか?
    合掌。
    自衛隊の車に手を振るおばあちゃんの後ろ姿も心打ちました。
    一期一会がariari先生の心に辛くもあり、又希望の灯になりますように。

  3. 読んでいるだけなのに、涙が止まりません。涙腺が壊れたみたいに・・・。
    人間って、いいですね。

  4. 本部長 より:

    被災されたおばあちゃんには全く持って言葉が出てきません...涙が流れるだけです。
    そして、この現実と対峙するariariさんのことを思うのが辛いです。
    これ以上、言葉になりません。

  5. えみーるぞら より:

    本日、福岡の取引先の方から、携帯に連絡をいただlました。
    「GW、名取でボランティア、少しやって、福岡に帰る途中や」って、
    この渋滞の中、福岡からクルマで来なくても…って、思いましたが。
    私はヘタレなんで、真似できません。
    4/22-23で、仙台、塩釜に行きました。
    津波の痕跡は、TVの画面より、やはりリアルです。
    1)仙台空港のスタッフの皆さん、テンション高いです。
      出発時、保安検査後、仮設待合室への登場客へは、
      毛布と簡易カイロが配られました。
    2)4/23は、雨だったんです。
      待合室から、タラップまでの数十メートル、
      バスでの送迎です。
      歩かせたほうが早いのに、乗客が濡れないための配慮です。
      オーストラリアの首相が、被災地を訪問していたので、
      同国のTVクルーが大勢、バスに乗っており、
      「こんな短い距離を、バスかよ」もいないな歓声でした。
      これが、日本人の「おもてなし」なんだよ、と説明できない
      自分がふがいなかったです。

  6. ariari より:


    yah-_-yahさん
    福島県からずっと北上してきましたが、もうどこを撮っても瓦礫の山。
    見慣れた町が壊滅的な被害を受けている状況は正直見るのが辛かったです。
    でも、ずっとモヤモヤしていても前へ進めませんので見ておいてよかったです。
    雄勝のおばあちゃん、本当に残念でなりません。
    長い間ずっと港を見守って、多くの船乗りさんを和ませてくれたでしょう。
    町を作ってきた方です。こんな悲惨な形でお亡くなりになられたこと、悔しいです。
    震災のこと、被害を免れた地域ではすでに普通の暮らしです。
    わずか数キロ離れた沿岸でも被害がないところさえ。
    みんなが沈んでしまってはいけませんものね。

  7. ariari より:

    >cocoonさん
    写真をプリントしたとき、本当に早く渡したい、そう思っていました。
    実はちょっと顔が写っているカットもあったので、それも。
    ご親戚の方の住所がわかったので、その写真を後ほど郵送するつもりです。
    そんなことしがぼくにはできません。
    自衛隊さんに感謝していたおばあちゃん、生き生きとして元気に毎日旗を振っているとか。
    それも、元気の源なんじゃないかと思うんです。
    もし自衛隊さんがみんな引き上げてしまったら元気なくしちゃわないかと心配です。

  8. ariari より:

    >おつかれさんこんさん
    そんなに泣いてはいけませんw偽善者の行動に泣くなんて・・・
    ありがとう。
    人間も捨てたモンじゃない、と思います。卑怯な奴も多いけどね。

  9. ariari より:

    >本部長さん
    ありがとう。泣かせてしまいすいません・・・
    泣かせるために書いているわけじゃなく、自分のための備忘録です。
    元々ブログは自分にとっても備忘録の役割を果たしているんです。
    最近、本当に記憶力がやばくて、ブログにでも残しておかないとダメなんです。
    旅をしたときの行程などをきちんとこうして残さないとダメなんです。
    現実と対峙しなければ、今後、町を撮れなくなる危機感を持っています。
    今回のフィルムの結果如何では引退覚悟ですよ。

  10. ariari より:

    >えみーるぞらさん
    ボランティアをGWに行った方、多かったようですね。
    本当に頭が下がります。昨日Pエリアで札幌ナンバーの若い人と話をしました。
    彼もこの休みに三日間ボランティアをやってきたそうです。
    ボランティアをした方は、行く前誰にも云わないで行く人が多いみたい。
    わざわざ「私、ボランティアに行くんですよ♪」と子供の遠足前夜みたいに
    チャラチャラしているような人は現実を見て打ちのめされるんじゃないかと。
    ボランティアはイベントじゃないですからね。
    それにGWは見物に来る方も多かったです。現地の人は厳しい目で見ています。
    ただ、その地に何らかの思いがあるとか、ご親戚、友人のお見舞いに来た、
    そういう方も多かったんじゃないかと思います。
    日本人のおもてなし、というか、お世話になった方への御礼を、というのも
    こういう時にこそ行わないとならないと感じました。

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